「二関節筋と単関節筋の役割と制御機能について」

目次

二関節筋と単関節筋

筋肉は二関節筋と単関節筋に分けられます。
四肢の筋肉には二つの関節を跨ぐ二関節筋と一つの関節を跨ぐ単関節筋に分けられ、四肢は、一対の拮抗する二関節筋と、両端の関節にある二対の拮抗する単関節筋の六対の筋肉からなっています。

上肢の二関節筋は上腕二頭筋と上腕三頭筋長頭です。単関節筋は肩関節の三角筋前部と三角筋後部、そして肘関節の上腕三頭筋外側頭と上腕筋が挙げられます。

一方下肢の二関節筋は大腿直筋とハムストリングス(大腿二頭筋長頭、半腱様筋、半膜様筋)です。単関節筋は股関節の大腿四頭筋と大腿二頭筋短頭、そして膝関節の腓腹筋と腓骨筋が考えられます。

この六対の筋肉構造が上肢や下肢のように骨と筋肉が関節で接続された「リンク機構」が相対的に動くことでリーチングや歩行などの特定の運動ができるようになり、二関節筋や単関節筋はリンク機構の中でそれぞれ特定の出力方向領域で活動を交代しながら全方位をカバーする「制御機能」として働きます。

二関節筋の働き

特に二関節筋は、一つの筋肉が二つの関節をまたぐことで、その筋肉が両関節の動きに影響を与えることができる特性を持っており、剛性制御と軌道制御の両方に重要な役割を果たします。
例えば片足立ちの状態で姿勢を保つ場合、足と地面との接触点周辺の筋肉が適切な剛性を持つことが必要になります。二関節筋(例えば、ハムストリングスや大腿四頭筋)は、関節の剛性を調整し、体の姿勢を安定させます。これらの筋肉が適切に働くことで、体は一つの足に体重を支えることが可能となります。このように剛性を調節して安定性を高めることを剛性制御と言います。

二関節筋の働き軌道制御

軌道制御とは、体の動きを制御するメカニズムのことを言います。片足立位の状態から歩行や走行へ移行する際、またはバランスを崩したときに体を安定化させる際には、軌道制御が重要となります。この時に二関節筋は関節の動きを調整し、体の重心を適切な位置に保つように体の動きを制御します。例を示すと、ハムストリングスは膝の屈曲と股関節の伸展を調整し、大腿四頭筋は膝の伸展と股関節の屈曲を調整します。これらの筋肉が適切に働くことで、片足からもう片方の足へと体重を移動させることができ、その結果、歩行や走行を行うことが可能となります。

片足立位における二関節筋の働き

以下に、片足立位に主要な二関節筋が行っている剛性制御と軌道制御は下記のとおりです。

  1. **大腿二頭筋(ハムストリングス)**: 大腿二頭筋は膝と股関節を跨いでいます。剛性制御において、大腿二頭筋は膝関節の安定性を保ち、軌道制御においては、大腿二頭筋は膝の屈曲と股関節の伸展を調整し、体の重心を前後に移動させることが可能にします。
  2. **大腿四頭筋の一部(直筋)**: 大腿四頭筋は主に膝関節を動かす単関節筋ですが、その中の一部である直筋は股関節も跨いでいます。剛性制御において、直筋は膝関節の安定性を保ち、軌道制御においては、直筋は膝の伸展と股関節の屈曲を調整し、体の重心を前後に移動させることが可能にします。
  3. **腓腹筋**: 腓腹筋は足首と膝関節を跨いでいます。剛性制御において、腓腹筋は足首の安定性を保ち、軌道制御においては、腓腹筋は足首の伸展と膝の屈曲を調整し、体の重心を左右に移動させます。

これらの二関節筋が複数の関節を同時に制御することで、リンク機構(つまり、関節をつなぐ骨と筋肉のシステム)全体の剛性が高まり、片足立位でもより安定した姿勢が維持できます。また、二関節筋が存在することで、リンク機構の先端(片足立位では接地している足の裏)で発揮される力の方向を自由に制御できます。

単関節筋の働き

一方、単関節筋は、その名の通り一つの関節の動きを制御する筋肉です。これらの筋肉は、特定の関節の動きを直接制御し、その関節の安定性を保つ役割を果たします。

片足立位において膝関節の単関節筋(外側・中間・内側広筋と大腿二頭筋短頭)は、互いに収縮し合うことで膝関節の剛性を高め、微妙な動きの調整を通じてバランスを維持します。

そして率的でバランスの良い動きは単関節筋と二関節筋が適切に連携して働くことが不可欠です。そのためどちらかが満足に機能しなくなると姿勢制御や運動制御に影響しますが、特に二関節筋の筋力低下や異常な筋緊張などが生じると顕著です。

例えば二関節筋が機能せず、単関節筋だけで姿勢制御を行った場合、以下のような結果が考えられます。

単関節筋だけで姿勢制御を行うと、その筋肉の働きによって一つの関節の動きだけが生じます。しかし、人間の体は複数の関節と筋肉が連携して動くことでバランスを保ち、効率的な動きを可能にしています。そのため、単関節筋だけで姿勢制御を行うと、体の動きが制限され、バランスを保つことが難しくなる可能性があります。

具体的には、単関節筋のみが働くと、その筋肉が支配する関節の動きだけが生じ、他の関節の動きが制限されます。

また、単関節筋は一つの関節の動きを支配するため、その筋肉に大きな負荷がかかります。一方、二関節筋は複数の関節の動きを支配するため、負荷を分散させることができます。したがって、単関節筋だけで姿勢制御を行うと、筋肉の疲労が早くなり、効率的な動きが難しくなる可能性があります。

二関節筋の筋力低下と老後のクオリティーライフ

以上のように、単関節筋だけで姿勢制御を行うと、二関節筋が筋力低下などによって働きが悪くなると、バランスが悪くなって疲れやすくなりますが、このような症状は高齢者と同じです。そして高齢者は総じて二関節筋の筋力低下が著しい。その結果単関節への負荷が増し、歩行時に転びやすく疲れやすくなります。
このように二関節筋の筋力低下は老後のクオリティーライフの低下に直結するので、日ごろから鍛えておくことが重要です。さらに言えば筋力は単関節筋も二関節筋も姿勢や関節の状態(アライメント)に依存するので、背骨のズレや骨盤の歪みもカイロプラクティックで矯正しておく必要があります。

参考資料

二関節筋と運動制御

立ち上がり動作における二関節筋の機構特性

『二関節筋の協調制御理論』 医学書院

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