読書録: ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト

人と魚の進化の歴史。

本書は、タイトルからも分かる通り、人と魚の中にあるそれぞれの共通点を探っていく、進化に関する本です。

筆者のニール・シュービンは化石の調査や様々な種との比較解剖、系統発生や遺伝子解析や操作など、マクロとミクロのさまざまな視点を行き来しながら進化の歴史を探っていく。

人と魚の進化の歴史を仮説を立てて実験で実証していく過程は、証拠を集めて推理する一級品の推理小説のようで興奮する。

この手の内容は、基礎知識がないと難解な内容なのだが、平易な文章で分かりやすく書かれているので、専門教育を受けていない頭の悪い私でもスラスラ読む事ができた。

進化の歴史を探る証拠集めの手始めに、筆者は魚の鰭と陸棲の脊椎動物の四肢の比較から手をつける。

鰭から四肢へ。

魚の鰭と四肢は似ているように見えても実は全く別物である。

そもそも魚の鰭は鰭膜という膜組織で、四肢のように骨格はない。

全く似ても似つかない鰭から四肢が進化したことを証明するには、鰭が四肢が似ているだけでは証拠にならない。

鰭から四肢になる移行期に生息していた生物の化石を見つけ、さらに鰭を作る遺伝子と四肢を作る遺伝子とが事実上同じであることを示さなくてはならない。

前者は爬虫類のように肘があり腕立て伏せのようにして体を支えることができる魚「ティクターリク」の化石を本書の筆者が発見したことによって証明された。

あとは鰭を作る遺伝子と四肢を作る遺伝子とが事実上同じであることを示すだけである。

鰭と手を繋ぐ遺伝子を探す。

本来ならティクターリクの手を作る遺伝子を解析し鰭を作るDNAを探せばいいのだが、化石には遺伝子が残っていないので、それはできない。

代わりに古代魚のエイやサメで遺伝子を探す。

四肢を持つ動物には手特有の構造パターン(上腕・前腕・手首・指)の発生を制御する遺伝子「ソニック・ヘッジホッグ遺伝子」がある。

この遺伝子が四肢を持たないエイやサメで見つかれば、鰭を作る遺伝子と四肢を作る遺伝子が事実上同じであることが証明される。

そこでエイやサメのDNA全体をスキャンすると、ソニック・ヘッジホッグ遺伝子が見つかった。

遺伝子が見つかっただけでは証明したことにはならない。

その遺伝子がサメやエイの鰭を型作る部位で活性し、四肢を持つ動物と個体発生的に同じ時期に遺伝子のスイッチが入り、同じように機能すれば、鰭も四肢も同じ遺伝子の制御を受けている事が証明され、結果的に鰭から四肢が進化した事が証明される。

ソニック・ヘッジホッグ遺伝子のスイッチがどのタイミングで入るかを調べると、エイの個体発生において鶏の四肢を作る時期と一致した。

鰭も四肢も同じタイミングで遺伝子のスイッチがオンになることがわかる。

そして遺伝子のスイッチが入る場所を調べると、鰭の後端の組織領域だった。

鰭と四肢も同じ領域で遺伝子が活性化することがわかる。

最後にエイの鰭でも同じ働きをするかどうかを試すために、マウスのソニック・ヘッジホッグ遺伝子によって作られたタンパク質をビーズに染み込ませてエイの鰭に移植する。

鶏での実験では翼の部分に鏡像関係に重複肢が生じた。

遺伝子の機能が同じであればエイの鰭でも同じ奇形が生じる。

するとエイの鰭でも鶏と同じ鏡像関係の重複肢が生じた。

四肢の発生も鰭の発生も遺伝子は同じで、スイッチが入るタイミングも場所も、遺伝子の機能も全く同じであることが分かった。

これで四肢は鰭から進化した。そして四肢は新しいDNAではなく鰭を作る遺伝子によって作られていることが証明された。

さらに眼や鼻や耳などの他の器官も同じように調べると、四肢と同じように古い遺伝子からの使い回しで作られていることが、さまざまな実験で明らかになった。

進化とは新築ではなくリフォームと建て増し。

そこから分かることは、我々の体を家で例えるなら、人間は新築物件ではなく、魚の体を元にリフォームと建て増しを繰り返した結果、九龍城のように複雑な違法建築のような体になった。

筆者は最終章で、違法建築ボディー故に生じる人間特有の病気(糖尿や肥満、腰痛のなどなど)につい詳しく説明している。

それを読むと人間の体はこうも欠陥だらけでポンコツなのかがよくわかる。

このような医学に進化学の視点を取り入れた医学のことを「進化医学」という。

進化という歴史的視点から腰痛や肩こりを眺めてみると、ありきたりの症状が全く違ったものに見えてくる。

お陰で、症状に対する視野が大きく広がった。

そんなわけで当分の間、進化や進化医学に関する書籍を集中して読み込んで行こうと思う。

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