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働いたら負け「怠惰への讃歌」

目次

ヒマを豊かに過ごす怠惰な社会。

科学技術の進歩でロボットやAI、ITなどの機械化が進み、将来人間の仕事が無くなると取りざたされている昨今。

今から遡ること80年以上前に、そんな未来を予言し、そんな社会で生きていくために必要なスキルと心構えと社会制度について書かれた本が今回紹介するバートランドラッセル著「怠惰への讃歌」です。

「怠惰への讃歌」は主に仕事がない暇な未来について書かれたエッセイ集です。

表題の「怠惰への讃歌」で機械化によって仕事が無くなる未来の全貌を紹介し、他のいくつかのエッセイが教育や社会制度などの細かい内容を補完する構造になっています。

この本の内容は本の背表紙に書かれている以下の文章が言い表しています。

労働生産性が向上して、それでも同じように働けば、過剰な生産と失業が生まれるのは当然。

では、どうすれば?

働かなければいいんです!

働く事自体は徳ではない。働かない時間を、価値のある生の時間を得るためにこそ、人は働く。

技術革新による過剰生産の世の中では働くことはむしろ害になる。

「怠惰への讃歌」は、働かない「怠惰」がもたらす間暇を豊かに生きるための指針となるだろう。

労働から解放されるユートピア。

物や食料がない時代、人は身を粉にして働かざる得なかった。今は技術の進歩により機械化が進んで労働生産性が向上して大量生産できるようになり、製造コストが下がって物は安くなった。

生活を維持するためであれば、労働時間は少なくなる筈だが、「24時間働けますか?」と言っていたバブル期よりも劣悪な労働環境で馬車馬のように働き、体を壊し、心を壊している。

一方では失業者がやる事もなくブラブラしている。

機械によって人は労働から解放されるどころか、奴隷のように働き、売れずに捨てられる物と失業者を量産し、年間3万人近い自殺者を出しているのが現状。

なんとラッセルが「怠惰への讃歌」を書いた80年前と現代は技術が進歩した以外、根本的なことは何も変っていない。

古代ギリシアは奴隷によって労働から解放された有閑階級が学問や思想や芸術に従事し、発展させた事で「ギリシャ文明」が生まれた。それも奴隷によって生まれた「スクール」の語源である「スコレー(暇)」のおかげである。

現代では科学技術が進歩し、24時間文句も言わず休まず働いてくれる「機械」と言う名の奴隷がいる。生活に必要な物資とわずかな余剰を得るために必要な労働ならば、今よりもずっと少なく済む筈だ。

4時間労働。

この本でラッセルは4時間労働が望ましいといっているが、人工知能が進歩している現在であればさらに少なくすることも可能だろう。

こうして暇になった時間を古代ギリシア人のように芸術や思想や学問など、より人間らしい活動に使えば人類はより進歩するかもしれない。知識も今ならネットの発達しているから言葉さえ分かれば、なんの苦労もなく手に入る。

暇つぶしの娯楽では、特に情報に転嫁できるゲームや音楽や映像などに関してはほとんどタダ同然で享受できる。

こうして「パン」と「見世物」が格安で手に入るのだから、現状に満足し、足るを知ることであくせく働く必要はなくなる。労働を皆でシェアすれば失業者も理論上いなくなるはずだ。

しかし、そんな未来は一向に訪れない。なぜなら我々が「利潤追求」しているからだとラッセルは訴える。

利潤追求をやめる。

売り上げを伸ばそう。シェアを伸ばそうと、もっと豊かな暮らしを、企業や個人が利潤を求めて市場に商品を投入したり、労働市場に人が流れ込めば、物や人が溢れ、安く買い叩かれた上にこき使われ、失業によって暇になる。

企業も個人も必要以上に利益を追求することなく、生産と労働を控えることが求められ、そのために社会主義政策が必要だとラッセルは主張する。

制度としての社会主義。

彼が理想とする社会主義とは生産と労働を抑え、必要以上の所有財産を制限し、投機を禁止するだけで、共産主義国家のように個人の人権を抑えつけ、無理やり従わせるようなことはしない国家運営だと言う。

つまり、ガチガチの社会主義ではなく、運用は民主主義で制度が社会主義と言うことになる。詳しい内容は本書の「社会主義の問題」に書かれていますので、そちらを参照願います。

だが欲望に忠実で強欲な人間がなんの強制力もなしに利益の追求を止めるとは思えない。この社会主義国家は、よほど徳性が高く、民度が高い国民が民主主義的にこの制度を受け入れた場合のみ機能する。

そこで、重要になるのが教育になる。

仕事がない時代の教育。

彼はエッセイの「無用な知識」と「教育と訓練」のなかで仕事がなく暇な時代に必要な知識と民度の高い国民にするための教育方針を記している。

現代の教育は立派な労働者になるために必要な教育であるが、これからは暇を有効に使うための教育と知識が必要になる。

怠惰な社会は高度な科学技術のインフラによって賄われているため、それらの開発や維持管理のために当然、理工系の専門知識が必要になる。

しかし専門知識よりも重要になるのが、現在ではすっかりお荷物に成り下がった哲学や歴史や芸術全般の知識、人文系の「教養」だとラッセルは訴える。

専門知識は仕事の役に立つが、ユーモアがないから暇つぶしにならない。仕事がない暇な時間を持て余し、日がなテレビを眺めている年寄りのように、ただ呆然と過ごすことになる。これなら呆けだほうがマシである。

また、人は暇になれば「小人閑居して不善をなす」と言うように、酒を飲んだり、ゲームや博打をしたりと、受動的で安楽な快楽で気分を紛らし身を滅ぼすが、「教養」にはそれを防ぐ効果がある。

「教養」には、もう一つ重要な効果がある。それは人類が仕出かした過去の失敗から学び、高度な科学技術を使うのに相応しい人間の徳性を身につける効果である。

科学技術が進歩しても使う側の人間が一向に進歩していない。現代は技術の恩恵よりはむしろ、大量破壊や環境破壊と言った人類滅亡に直結しかねない厄介ごとが噴出している。

怠惰な社会は国民の高い民度と高い科学技術によって維持されている。

だから、なんぼ高度な科学知識があっても道徳的に最悪な人間が使えば人類滅亡に拍車がかかる。

危険極まりない技術を使うにふさわしいマトモな人間を育てるためにも「教養」を育むことが求められる。

ユートピアは実現可能か?

ラッセルが理想とする怠惰な社会は、政府から強制されることなく、自発的に過剰な所有や利潤追求を放棄できるほど民度が高い国民で作られた社会主義国家ということになる。

しかし、こんなおめでたい理想を国家規模で実現するなど、タイムマシンと同じで理論上可能だとしても、実現不可能だ。

ではラッセルの理想とする怠惰な社会は夢幻なのかと言うと、そうでもない。ラッセルの時代に怠惰な社会を作ろうと思ったら国家と言う形をとらざるえない。しかし、今は通信技術が発達し、おまけに仮想通貨なるものまである。

狭い範囲であれば仮想通貨を使い独自の経済圏を作ることができる。ラッセルが提唱する社会主義も国家に手をつけずに自分たちのコミュニティーベースで作ることは可能だ。

理想を共有する仲間と利潤を過剰に追求しない緩い経済圏を作り、仕事は必要なものを手に入れるために少ない時間働くもよし、やりたいことがあるのなら、そのために寝食を忘れて働いてもいい。ただ過剰な利潤を追求しなければいいのだ。

仕事も映画製作やオーケストラのように、やりたいことや実現したいことなど、そのプロジェクトごとに人を集め、プロジェクトが終了したらチームは解散する。こうなれば会社などいらなくなる。

資金もクラファンで調達して集めれば済むことだ。当然、ハードルは高いが、本当にやりたいことなら、できるはずである。

特にやりたいことがない人はコミュニティー内で頼まれた仕事を4時間程度こなせばいい。後の時間は好きなことに使えばいいのだ。

国単位で怠惰な社会を作ることは不可能だが、小さな経済圏を作ることができれば出来ない事ではないだろう。

利潤追求を諦め、経済的成長を諦め、中央集権国家という幻想を捨てる事で、資本主義の行き詰まりから脱却できるかもしれない。

「怠惰への讃歌」を読むことで、価値観が180度変わり、仕事がない絶望的な未来に対して希望が抱けると思うので、是非、読んで頂きたい。

堕落の象徴のように言われているニートが、これからの時代を生き抜く上で必須スキルになるだろう。

言い回しが回りくどく、誤字が多いのが難点ですが・・・。

動画による紹介:「ニートの日」にちなんだ本の紹介「怠惰への讃歌」

合わせて読みたい本。


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藤田 和広

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