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人は太るようにできている!

よく患者さんから「骨盤の歪みを矯正したら痩せますか?」という質問を受けます。

冗談めかして質問しているフリはしてますが、目元が結構マジです。

「出来ます!」と言えば一桁多く請求されても払います!と言う強い意志が眼に現れ、笑みを浮かべる口元と結構マジな目つきのギャップは間近で見ると結構怖いです。

そんな人に面と向かって「人間は何十万年という時間をかけて太るように進化し、多大な犠牲を払って太る環境を作り上げてきたんです。骨盤を押したぐらいで痩せると思いますか?」とは流石の私も言えません。

なので人間は太るように出来ていることを進化の観点から詳しく説明します。

通常、進化と言えば環境に応じて体の構造や機能が変わり適応することを言いますが、人間の場合は体だけでなく道具を作る「技術」を進化させることで環境に適応し、また生活環境や社会環境を変えることができます。

人間の600万年の歴史はずっと飢えとの戦いで、飢餓に適応するために「肉体」と「技術」の進化を遂げ、飢餓に耐えられる太りやすい体と、手っ取り早く高カロリーのものを摂取できる環境を手に入れました。

それが現代の飽食の時代です。

それぞれがどう進化したのかを説明し、なぜ痩せられないのかを説明します。

肉体的な進化

長年飢饉や氷河期などに見舞われ慢性的に飢えていた人類は飢餓に備えて摂取したカロリーを脂肪という固形燃料に変換して皮下に溜め込むように進化しました。

この太りやすく痩せ辛い体質のおかげで過酷な氷河期を生き残ることができました。

しかし飽食の時代になるとこの体質は仇となり、摂取カロリーが増えて消化吸収がしやすい糖分が多くなると、全部脂肪として溜め込まれでブクブク太ります。

飽食は飢餓と違ってすぐに死ぬわけではなく、不健康ながらも子孫を残せる程度長生きします。

なので飽食に適応した遺伝子が突然変異によっ生じたとしても、次世代に受け継がれることはないと思うので、飽食に適した体に進化することは恐らくないのでしょう。

あとは自助努力で痩せるか、テクノロジーの進化に期待し、過剰な糖の吸収を抑える薬が出るのを待つしかないでしょう。

技術の進化。

人類は多くの食べ物を得るための技術「農業技術」と、わずかな食料から多くのカロリーを摂取するための技術の「食品加工技術」を長い年月かけて発展させてきました。

これらの技術は人類に多くの食料と高カロリーと肥満をもたらしました。

技術の歴史を狩猟採集民・農耕民族・産業革命から現代と辿りながらその流れを簡単に説明します。

狩猟採取民

旧石器時代以前の狩猟採集民は食べ物を手でちぎり、口に放り込んだものをひたすら咀嚼することで、粗悪な食物に含まれるわずかな糖分や脂質を摂取し、カロリーを得ていました。

彼らが拾ってきた食べ物は筋張って食べづらい粗悪な食物でしたが、彼らは日がな強靭な顎でそれを咀嚼してすりつぶし、唾液と混ぜて炭水化物を糖に分解し、飲み込んだ食べ物を長い時間かけて胃で消化して、ながーい時間をかけて小腸で糖(グルコース)を吸収していました。

そうやって1日の大半を食料採取と咀嚼と消化吸収に費やしていました。

食品加工に使った最初の石器

その後、おおよそ今から100万年前あたりに、原始的な石器が始めて食品加工に使われるようになりました。

彼らは筋張った食べ物を石で叩き、すりつぶすことで食物繊維と澱粉を分断し、食べやすく加工していました。

これにより一口あたりのカロリー摂取量が増え、消化効率が断然良くなり、おかげで腸の負担を減らすことが出来ました。

消化吸収の負担が少なくなると、食べ物を長く腸内にとどめておく必要がなくなるので、腸は次第に短くなっていき、縮小した腸の代わりに脳が大きく発達しました。

腸の縮小と脳の発達

人間以外の動物は体の大きさに対して腸が長く脳が小さいのですが、人間の場合は逆で腸が短く、脳が大きく発達しています。

しかし人間の脳は他の動物の脳と比べて、とにかく燃費が悪い厄介な代物です。

例えばチンパンジーだと脳が1日あたりに消費するカロリーは、おおよそ100キロカロリーから120キロカロリーですが、人間になると1日あたりのチンパンジーの二倍以上の280キロカロリーから420キロカロリーが消費されます。

こんな燃費の悪い脳を養うための苦肉の策が、腸の短縮でした。

腸が消費するカロリーは脳とほぼ同で基礎代謝の15パーセントですが、消化吸収にかかる手間を道具で補うことで消費カロリーの節約に成功します。

その結果、腸が短くなり、浮いたカロリーを脳の成長に当てることで、脳は大きく成長しました。

食品加工技術によって退化したのは腸だけではなく、咀嚼の回数が減ることで、顎が縮小し咀嚼筋も退化しました。

咀嚼筋は咀嚼の度にその付着部である頭蓋骨を圧迫していましたが、咀嚼筋が退化することで頭蓋骨への圧迫が減り、代わり脳の発達に必要なスペースが確保されました。

食品加工に原始的な道具を使ったことで糖や脂肪の消化吸収の効率が飛躍的に向上し、脳が発達しました。

そして脳の発達によって道具が進化し、旧石器時代から新石器時代になると農耕民族が現れます。

農耕民族

彼らは澱粉を多く含む穀物を栽培し、カロリーの安定供給を実現しました。

さらに穀物を脱穀したり、火を使用した調理法で食べ物が消毒され、さらに消化吸収が良くなってカロリー摂取量は増え、消化吸収にかかる時間は短縮されました。

こうしてその日暮らしの狩猟採集民よりも高カロリーの食べ物にありつけるようになり、さらに余剰食料と余剰時間を確保できるようになりました。

しかしそれは同時に人口増加を招き、都市国家の誕生から貧困、圧政、疫病、戦争と地獄絵図のような時代に突入します。

そして中世になると農民の生活と健康状態は狩猟採集民より悪く、背は低くなり、寿命も短くなりました。

中世後期になるとヨーロッパでサトウキビが栽培植物となり、さらに搾汁機が発明されます。

これにより王侯貴族の間で高カロリーな「砂糖」が食べられるようになり、ガリガリの農民を尻目に貴族たちはブクブク太りだしました。

18世紀には奴隷を使ったプランテーションでサトウキビの大量栽培が可能になると、砂糖が大量により安く出回るようになるため、太るますます増えていきました。

産業革命から現代

産業革命以降の19世紀になる奴隷制が廃止され、砂糖の生産が奴隷から機械に変わります。

これにより砂糖は大量生産され、欧米諸国を中心に広く出回るようになります。

そして第二次大戦を経て1970年代にコーンスターチを糖液に変える手法が考案されるよになると、糖は一般家庭の食卓に並ぶほど安価でありふれた食材になりました。

そして現在では砂糖の生産量と摂取量は増加の一途を辿り、それに比例して肥満が増え続けています。

このように人類600万年の歴史は、少しでも多くの食べ物を得て、少しでも多くのカロリーを効率よく摂取するために肉体と技術を進化させてきました。

その集大成が砂糖漬けの「飽食の時代」です。

ダイエットは修行と同じ。

トドのつまり、人間は太るように進化してきました。

だからここ百年程度で飽食になったからといって、何万年と受け継がれてきた貧乏性は変わりません。

体は高カロリーのものを欲し、摂取すればたちまち溜め込むように出来ています。

さらに我々を取り巻く環境は太りやすいものが埋め尽くすキャンディーストアのような状況です。

そんな中で痩せるということはお菓子の家で断食するのと同じぐらい辛いことで、安直な方法論に飛びつくような生半可な覚悟では到底無理です。

相当な意志の力が要求されます。

痩せたければつまらないことに金を使わずに強い意志を持って自制するしかありません。

まともな栄養を取り、摂取カロリーを抑え、消費カロリーを増やしましょう。

まず、それを実行しましょう。

藤田 和広

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藤田 和広

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