顎関節症の症例:噛むと痛む顎の痛み。

目次

顎関節症の症状・経緯・原因について。

噛むと左顎に鋭い痛みを訴える30代女性が来院。図1


図1

顎関節症の経緯:

10年前から口を開け閉めのたびに左顎がガクガクしていたが、痛みはなかった。
二週間前から噛むと痛むようになり、2日前からご飯を噛んだだけで左顎に激痛が走る。
同日歯科医を受診し顎関節症と診断され、ロキソニンを処方される。
1週間様子を見るように言われるが、一向に改善する気配がない。
たまたま当院の「顎の痛みの原因は猫背!」という記事を読み、当院へ来院。

顎関節症に関連する傷病歴:

10年前と5年前に「メニエール病」になる。症状は「回転性のめまい」と低音域の「耳鳴り」が生じた」。メニエール病は2ヶ月ほどで治った。
毎月1−2回ほど目の奥に拍動性の偏頭痛が生じる。

顎関節症の検査:

顎周囲の筋肉を触ると熱感や腫れはないが全体的に張っており、特に左側が張っている。

下顎のエラ(下顎角)の内側を触ると、左側が強く張っており圧痛を訴える。図2


図2

口を開けると最初に下顎が左に移動し、開口間際に右に移動する。口を開け切った時に左の顎関節が大きく左側に飛び出す。

以上のことから全体的に食いしばる傾向があるが、特に左の食いしばりが強い事がわかる。

姿勢の観察:

姿勢は首、肩、肩甲骨、骨盤とも全て左側の高く、右側が低く傾いている。

頭は、左に傾いてかつ前に出ている。

骨盤と右の大腿骨は共に反時計回りに捻れている。
つまり骨盤は右側が前に出て、左側が後ろに引っ込み、右の大腿骨は内股気味に内旋している。図3

図3

全体的に前傾姿勢で、横隔膜の裏あたりから上部腰椎あたりで背骨が反り「反り腰」担っている。
横隔膜より上は背骨が曲がり猫背になっている。このような反り腰と猫背のハイブリッド姿勢は往々にして呼吸が制限される。

顎関節症の原因:

この方の顎関節症は、猫背と頭が前に出る姿勢「前方頭位」による食いしばりと、呼吸が制限されることによって生じる顎や顔周囲の筋肉の緊張が原因です。

原因の詳しい説明。

【姿勢による顎関節症】

猫背になると背骨よりも頭が前に出ます。このように頭が前に出た姿勢のことを「前方頭位」と言います。図4

図4 前方頭位

頭は首や後頭部に着く筋肉と背骨によって支えられていますが、前方頭位になると頭が首の骨よりも前に出ることによって、骨で頭を支えることができず、首や後頭部の筋肉に負担が集中します。

しかし腕や足の筋肉とは違い華奢な首や後頭部の筋肉だけで、5キロ近い頭を支える事は困難です。

そのため前方頭位が長引くと次第に筋肉は疲労し、支えきれずに頭がさらに前に出ます。

前方頭位が強くなると首回り筋肉だけでは頭を支えられないので、奥歯で食いしばり、顎の筋肉を緊張させて頭を支えます。

こうして無意識的に食いしばりが生じ、顎の筋肉が緊張してます。
この方の場合は左の奥歯で強く食いしばる傾向があります。

顎を強く噛み締めると、顎関節にある軟骨「関節円板」が圧迫され血流が滞ります。

その状態が長期化すると関節円板の表面が劣化し、口の開け閉めのたびにゴリゴリと音がしたり、痛みが生じます。

【呼吸による顎関節症。】

猫背になると胸郭や腹部が圧迫されて肋骨や横隔膜の動きが邪魔され吸気が制限されます。

横隔膜の動きが制限されると腹式呼吸ではなく胸式呼吸になり、息を吸う筋肉が緊張して硬く張ります。

主に首から上部の肋骨に着く筋肉や舌骨や顎に着く筋肉が緊張すると顎や舌にこわばりが生じます。

そのせいで食いしばりの他、舌骨周囲や喉の違和感が生じます。

食いしばりが生じると顎の関節円板を痛めますし、喉の違和感が生じると食事の際に飲み込みづらくなったり、飲み込むときに食道ではなく気管に入る「誤飲」が生じます。

【顎関節症と目眩と耳鳴りの関係】

顎は魚の呼吸器である鰓の軟骨から発生し、顎を動かす咀嚼筋や頬の周りの表情筋は鰓を動かす筋肉から発生したものです。

さらに、内耳や三半規管も元は鰓由来の器官です。

このように元を正せば魚の呼吸器「鰓」から発生しているので、鰓から発生した器官に問題が生じると他の鰓から発生した関連する器官に影響し、問題が生じます。

そのため、顎関節症はただの顎の痛みの他に、三半規管の問題で生じる「めまい」や内耳の問題で生じる「耳鳴り」などの様々な症状が生じます。

この方が過去に患っためまいや耳鳴りといった症状は、一見、顎関節症とは関係ないように思えますが、突き詰めると全て鰓由来の器官の問題によって生じた症状でした。

そのため、この原因である猫背と呼吸の制限を解消して顎関節症を改善すれば、耳鳴りやめまいも同時に改善されます。

鰓と顎関節の関係について詳しくはこちらを参考にしてください。→顎関節症と耳鳴りや難聴の関係。

顎関節症改善までの施術内容。

猫背によって背骨が曲がりズレた背骨の関節を手で矯正して背骨に動きをつけました。これにより、背骨の動きが柔軟になると同時に呼吸の際に背骨と肋骨が連動して動くようになり、呼吸が楽に行えるようなった。

腹式呼吸を促すためにズレた腰の骨(腰椎)や横隔膜に合わせて骨盤底筋群が動かせるように歪んだ骨盤を矯正した。

猫背を改善するための体操と矯正的に腹式呼吸にするための体操を指導した。

猫背や前方頭位を改善する体操はこちら→猫背を治し、肩こりを解消する「肩こりの対処法」

「顎関節症」の経過。

週一の施術3回で噛んだ時の痛みは解消されたが、口を開けた時の開けづらさが残る。

4回目から2週に1回の施術。5回目の施術から口の開けづらさがなくなる。しかし、時々、口を開けたときに音がする。

6回目以降はメンテナンスとして月1、その後6回の施術し、今年の5月に以降は指導した体操で症状の再発を自分で防げると判断し施術を終了。

院長からのコメント

顎関節症で歯科医を受診すると噛み合わせを合わせるために歯を削るか、マウスピースを作るといった処置を受けると思います。

しかし反対咬合のように、どうしても歯並びを強制的に矯正する必要がある場合は別ですが、噛み合わせを合わせるために歯を削ったり、マウスピースのような異物を口の中に入れると色々問題が生じるのでオススメしません。

歯は単に噛むだけでなく、髪の毛一本識別できるほどの優れた感覚器でもあります。そのため、下手に歯を削ると、当然削った歯は元に戻りませんし、たとえ削った分をセメントで盛っても感覚までは戻りません。

歯を削ることで口腔内の感覚の変化がストレスとなり食いしばりや歯ぎしりを引き起こすことが多々ありますので、歯を削る前にまず体の歪みから顎関節症の改善を目指す方がリスクが少なく安全です。

顎関節症でお悩みの方は歯を削る前に、是非、当院へご相談ください。

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