本の紹介:川崎長太郎著「抹香町 路傍」

目次

ダメ男の哀愁と侘しさ漂う私小説「抹香町/路傍」

主人公は文学に憧れて家業を放り出して上京するが食えずに生家に戻り、実家からほど近い海岸にある漁師が網などを保管する物置を住処に寝起きする50過ぎのダメ男。

定職もなく妻もなく、物置小屋をねぐらに、ビール箱を机に私小説や匿名批評などを書き送って暮らしをたてる、負け組、駄目男の日常を綴った私小説を集めた短編集「抹香町/路傍」の紹介。

抹香町・路傍 (講談社文芸文庫)

「抹香町」に収められた短編はどれも貧しく、愚かしくて虚しい川崎長太郎自身の私生活が綴られている。

どの短編も、生きることの虚しさ、人間が織りなすの面倒くさい柵、将来に対する不安と諦観が漂い、ポジティブな材料は何一つないが、不思議と絶望感も無い。

主人公は、自らが招いたどん詰まりの境遇に対して、戦うわけでもなく、また抗うわけでもなく筆一本を頼りに恥も外聞もなく逃げ回り、なんとか生き抜いているだけの典型的なダメ人間。

彼の綴るやたら句読点の多いた文章からは、絶望感の代わりにダメ男の哀愁と侘しさが漂い、踠き逃げ回り、しぶとく生き続ける地を這う虫のような力強さを感じる。

特に表題の「抹香町」は、枯れかかったダメ男の心象風景や、場末の街や娼家などの風景描写、主人公の無様な姿を見事な文章で描写されている。

「抹香町」

時代背景は戦後間もない頃の小田原が舞台で作者が50代の頃のお話。

作者の分身「川上竹六」は物置小屋を寝ぐらに執筆活動をしながら糊口を拭い、どん詰まりの貧乏生活を送っていた。そんなある日のこと、退屈と寂寞と虚空が入り混じった、胸苦しさで締め付けられるような気持ちになり、その気を紛らわす目的で小田原の赤線街「抹香町」へ行く事から話は始まる。

赤線街の抹香長の路地を歩いていると、店の門柱の前にポツンと立っている薄化粧の女に目を留める。薄化粧で娼婦らしくない佇まいに惹かれ、竹六はその女を買う。

女の身の上を聞くと竹六が睨んだとおり素人で、早くから両親を亡くし、百姓の婆さんに育てられた気の毒な身空の女「松ちゃん」。

半月前からこの娼家で客を取り、後半月もすると年季が明けて故郷へ帰る。

身の上話を聞いているうちに50の竹六は年甲斐もなく熱を上げ、故郷へ出向いて会いに行くと、しつこくいい寄るが、ぴしゃりと断られ、しょんぼりと店を後にする。

その後も何度か買いに行くが、とうとう年季が明けて女は国に帰った後だった。

仕方なく竹六は他の女を買う。するとあんなに胸を苦しめた「退屈と寂寞と虚空」な気持ちがなくなりすっかり白けた気分になった。

それ以来、竹六は抹香町通いをやめ、貧乏くさい退屈な日々の生活に戻る。

50過ぎのおっさんがのケチな女遊びで寂しさと性欲を紛らわすだけの小説。

このしょうもない小説の中で好きな箇所は、竹六が胸苦しい寂しさと、これまたどうにも抑えきれない性欲を抱えて女を漁りに抹香町を歩き回って様子が描かれたシーン。

句読点が多く読みづらい文章だが、句読点を論理の切れ目ではなくリズムと流れで捉えて読むと文章からなんとも言えぬ哀愁と侘しさと自虐的なユーモアが伝わってくる。

以下本文より。

竹六はむさぼるような、遠慮のない目つきでみて行った。電気で縮ららせた頭髪、塗りたくった、胸のむかつくような脂粉の顔、和服、洋服とまちまちだが、どれも安っぽく、あくどく、けばけばしいそんな、なりや化粧によくはまっている、野卑な丈夫そうなみだらがましい女達。同情より、一層頑なな反発を覚え、消毒液の匂いまで、段々鼻についてき、竹六は吐き気を催すような気分になった。何か、物欲しげに迷い込んだ、自分の酔狂もいまいましくなり、ついでに、いいとしながら、アロハシャツの青年などと一緒に、路地をまごまごしている己の姿が、みじめっぽいものように写ってきた。しかし、両脚は、彼の思惑や、顰めっ面とは関係無く、次から次へと廻って行くのである。

抹香町の風景や、そこにいる人々の風景、次第に嫌悪感を募らせる竹六の移りゆく心の動きが実に見事な文体で表現され、理性は女を嫌悪し下半身は逆に女を求めて歩き回る竹六(作者自身)の無様な姿が自虐的なユーモアを込めて見事に描かれている。

女を求めて赤線街をうろつき回る枯れかかった五十路男の姿はただ醜く、みじめな姿にしか映らないが、作者の筆にかかると、汚物のような男の姿から哀愁と侘しさが漂い、そんなダメ男になんとなく肩入れしたくなる。

ダメ男が放つ「哀愁」と「侘しさ」ダメ男が持つ「強さ」。

「抹香町」を初めて読んだ19の頃は、しみったれた主人公と、やたら句読点が多く、年寄りの小便のように勢いもなくダラダラ続く描写にうんざりして短編を1−2つ読んで投げ出してしまった。

当時の自分は、どうせ自堕落に生きるのなら坂口安吾や太宰のように命を燃やし、火だるまになってまっすぐ地獄に落ちる生き方に共感しても、川島長太郎のように醜態晒しながら虫のように這い回り、逃げ回っているだけのダメ男に「哀愁」や「侘しさ」感じることができず、しみったれた奴だと嫌悪感しか抱けなかった。

それが今では川崎長太郎の小説に哀愁や侘しさや強さを感じるようになった。

若い時は自分より優れた者になるために戦い、挑む「マッチョな強さ」、言い換えるなら「弱さを否定した強さ」に憧れ、勢いだけで戦いを挑んでは無駄に傷つき挫折していた。

しかし歳をとると自分より優れた者になろうとはしない。むしろ竹六のようにダメな自分を直視して、「ゴキブリならゴキブリで結構。それならよりゴキブリらしく」と居直る強さ、虫のように逃げ回り、しぶとく生き残る「弱さを前提とした強さ」に共感する。

ダメ男の「弱さを前提とした強さ」が醸し出す臭気が「哀愁」と「侘しさ」となって文章に漂い、40を過ぎてこの小説を読み返した自分を惹きつける。

とは言え実際の職場でこんなダメな男が自分の側にいたら、胸倉つかんで「テメェー何やってんだよ!」と怒鳴りつけるだろう。現実は往々にして残酷なものなのだ。

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