先日、TwitterとYouTubeで川崎九龍城として有名なゲームセンター「ウェアハウス」が来月17日に閉店することを知り、急遽25日の夕方に治療院を早仕舞いして現地へ向かった。
ここはゲームセンターとしてよりも、香港の魔窟「九龍城」を精巧に再現した内装の方が有名で、その出来栄えはさながら映画のセットのようだと評判だった。
軍艦島や戦後のドサクサ住居のような雑然として薄暗く、胡散臭い空間が好きな自分としては、開店当初からずっと行きたかったのだが、生憎、店内は撮影不可だったのと、ゲームにそれほど思い入れもなかったので、だんだん優先順位が後回しとなり、そのうちそんなものがあった事すら忘れていた。
しかし閉店するにあたり、撮影の規制が緩和されているようなので、ダメ元でスマホとスタビライザーを片手に現地へ向かった。
川崎駅を降りてターミナルを横切り、京急の高架下をしばらく歩くと、錆びたドラム缶のような薄汚れた外壁のビルが現れ、そこに赤いネオンで「あなたのウェアハウス」と書かれていた。
夜のせいもあり、怪しさ倍増だった。
安っぽいチャイナドレスを着た売春婦や、ずる賢そうな愛想笑いを浮かべながら周囲を気にしつつ近づいてくるポン引きがウロウロする香港のスラム街の雰囲気がビル周辺に漂っている。
建物の正面には廃工場の入り口のような鉄の扉があり、その前に立つと勝手にドアが開いて「プシュー」という音ともに圧縮空気が吹きかけられる。
なんとなく入店の演出が熱海の「秘宝館」に似ている。
そして一歩中に入ると、小腸のように曲がりくねった配管や錆びついて黒ずんだ建築材が剥き出しになった天井と、猥雑なチラシがベタベタ貼られた煤けた壁に囲まれた狭い廊下が奥へと続き、天井からぶら下がる裸電球がその異様な空間をボンヤリ照らしていた。
中華包丁を研ぐ音や、中国語で捲し立てる声や不気味な風の音など、九龍城の喧騒が廊下に鳴り響いていた。
造形と音による演出はハリウッドクラスの映画のセットそのもの、とてもゲーセンとは思えないクオリティーの高さに正直驚いた。
周りを見ると皆スマホ片手に写真をパシャパシャ撮っていた。
私も便乗して撮らせてもらった。
そこから洞窟のような通路を通るとヘドロのような色をした溜池があり、溜池を渡れるように飛び石と鉄パイプで間に合わせで作ったような手すりが設置されていた。
それを渡って鉄の扉から外に出ると駐車場になっていた。どうもここは出口のようだ。
店内に戻り別のルートを通るとエスカレーターがある。
それに乗りレトロゲームコーナーがある二階へ行く。
二階に上がると、そこは九龍城併設のゲーセンだった。
鶏肉が吊るされた屋台や生活感あふれる家屋が再現されて、あちこちの壁に「爆速豊胸」と書かれた美容整形のチラシや性病専門病院の広告が貼られている。
そんな九龍城を忠実に再現した空間の中にテーブル筐体や大型体感筐体が設置されている。
ユニバーサルの「Mr.Do」のテーブル筐体がそばにあったので、早速プレイしようとしたがゲーム画面のロゴが変だ。
よく見たら「Mr.Do」のパチモノ「Mr.Lo」だった。
他のゲームも見たらどれも「ペンゴ」のパチモノ「ペンタ」、「ギャラガ」のパチモノ「ギャラッグ」だった。
ここはパチ基板コーナーのようだ。
我々の世代にとってレトロゲームといえば駄菓子屋で並んでいたゲームで、駄菓子屋ゲームといえば皆パチモノ。
メーカー純正ゲームなどデパートの屋上か、繁華街にあるゲーセンでしかお目にかかれない。
だいたいその手の店はワンプレー100円だから小遣いの上限が1日100円以下の貧乏なガキには親同伴か年玉というイベントでもない限りとてもじゃないが敷居が高くて入れない。
貧乏なガキは仕方なしに1回10円の駄菓子屋のパチモノゲームで遊ぶしかないのだ。
ここにあるゲームは40年以上前に駄菓子屋で散々鐚銭を注ぎ込んだ偽物だが本物のレトロゲーム達なのだ。
レトロついでに「ゼビウス」のパチモノ「ゼビオス」も置いて欲しかった。
早速プレーしようとコインを入れると、ゆるーいBGMが流れる。
久々にその音を聞くと一瞬、とても懐かしい気分が味わえたが、時間の経過とは残酷なもので、おっさんになった自分はすぐに飽きてしまった。
次にガキの時分、金がなくてほとんど指を咥えて眺めてるしかなかった体感ゲーム「スペースハリヤー」を金に物を言わせ攻略してやろうと思いやってみたが、あっという間に3機消滅でゲームオーバー。
スペースハリヤーは肝心のムービングがダメになって据え置きハリヤーになっていたので、臨場感ゼロですぐに飽き、結局一面もクリアーできずに放っぽりだした。
やることが無くなり、とりあえずジュースでも飲もうと自販機を探すと、昔、酒屋併設のゲーセンによく設置されていた金を入れてコーラー瓶を引っこ抜くタイプの自販機があった。
懐かしさもあって早速、金を入れてコーラー瓶を1本引っこ抜き、備え付けの栓抜きで開けてラッパ飲み。
久々に自販機で瓶コーラーを飲んだ。
たしか20代前半、ツーリングで新潟まで行った時に立ち寄ったベンダーハウスで飲んだのが最後だから、かれこれ24年近く前。
コーラーは泡を立てながら病み上がりの五臓六腑へと染み渡る。
体に悪いものはなんで美味いんだ!
体に悪いものを一気飲みしたら、小便がしたくなり、便所に駆け込んだ。
便所の前では人だかりができていて、スマホ画面を覗き見ながら外国人が何やら楽しそうに話していた。
昔のゲーセンみたいにカツアゲか?と警戒しながらも尿意には勝てずにそのまま扉を開けた。
そしたらなんと、便所の内装まで九龍城仕様で驚き、一瞬、扉を閉めかけた。
そう言えば前情報で便所の作りがすごいことは知っていたが、慌てていたせいで忘れていた。
扉を開けると眼前にサイレントヒルの手術室か、バイオハザードの洋館のような空間が広がる。
本当に個室の扉を開けるとゾンビが飛び出して来そうな便所だった。
絵だけ見ると汚く作ってありますが、実際、掃除はしっかり行われ、空調や消毒もしっかり行われているので、不潔ではありません。
これが閉店とともに失われてしまうのは実にもったいない。
一通り二階を満喫させてもらったので、三階に移動する。
三階も二階と同じように九龍城にあった家屋や、潜りで臓器の密売も請負いそうな性病や美容整形と書かれた病院の建物が忠実に再現され、そこにレトロゲームや現代のレースゲームなどが設置されていた。
三階は最新のゲームと80年代後半に稼働していたグラディウスやツインビー、チェルノブなどのビデオゲームが主に設置されていた。
80年代後半は唯一の財源であった祖父母が引っ越してしまい、駄菓子屋に通えなくなったのと、中坊になるとパソコンにハマったせいでゲーセンに行く機会がめっきり減った関係でアーケードゲームから遠ざかっていた時期だった。
ここではやったことがない物だらけだったので、何もやらずにスルーした。
1階から3階まで九龍城という油物のような空間が続いて、さすがにうんざりしかけていたが、4階は油物から一転、キュウリの酢の物のようにあっさりした普通のゲーセンが広がる。
ダーツやビリヤードなどがあったが自分はあまり興味がないのでスルーした。
そしてまた九龍城に戻り、動画と写真撮影に専念した。
これほどの物をタダで堪能させてもらい、しかも散々カメラで撮らせてもらって、そのままトンズラするのは忍びないので、募金がわりに即死系ゲームで1000円ほど消費した。
建物への入場は無料とはいえ、中には写真だけ撮って居座り、1円も落とさずに帰る馬鹿がいるらしい。
こういうのがいるから潰れるんだよ!
最後ぐらいしっかりお金を落としていけ!
それにしてもこれだけ作り込まれたセットが来月で無くなってしまうのは実にもったいない。
是非、VRコンテンツとして残しておいて欲しい。
閉店まで少し日にちがありますが、これから行く人は、写真や動画撮影は他の人の迷惑にならないよう配慮し、自撮り棒をぶん回すようなことはやめて頂きたい。
その上で、リアル「クーロンズゲート」を堪能してください。
動画版:電脳九龍城はこちら↓
Posted from SLPRO X for iPhone.