著者:マイケル・ギルモア
訳者:村上春樹
この物語は暴力と恐怖に支配された著者マ
イケルギルモアの家族を綴ったノンフィクシ
ョン。家族は、支配的な父フランクとヒステ
リー気質の母ベッシー、そして上からフラン
クJr.、ゲイリー、ゲイレン、そして著者マイ
ケルの4人兄弟。両親共々謎に満ちた後ろ暗
い過去を持ち、家庭内は喧嘩が絶えず、子供
達は父親に溺愛されていたマイケルを除き、
父親から日常的に虐待を受けていた。こんな
家庭環境でまともに子供が育つわけなく、物
心つく頃になるとゲイリーとゲイレンはグレ
て警察のお世話になり、少年院から刑務所へ
と着実にキャリアを重ね、結局、ゲイレンは
殺され、ゲイリーはアメリカで最も有名な死
刑囚になった。
ゲイリーは仮釈放中に無辜の青年2人を射
殺して死刑になり、36年の人生に幕を閉じた。
裁判中はずっと死刑を望み、結局彼の望み通
り、長らく執行されなかった死刑が復活され
た。彼は一躍有名になり、ゲイリーを取材し
た本「死刑執行人の歌」は忽ちベストセラー
となり、後に映像化もされた。
ゲイリーの事件から20年近い歳月を経て
ローリングストーン紙のライターとなったマ
イケルは、本書を執筆した。彼は行方不明だ
ったフランクを探し出し、共に忌まわしい記
憶と向き合い、ゲイリーが殺人者となる「起
点」を探し求めた。だが問題は「起点」とい
う出来事ではなく、血縁に受け継がれた「否
定の遺産」の方だった。ゲイリーとゲイレン
はあらゆる権威を否定して争い、犯罪者とな
って命を落とし、一方のフランクとマイケル
は自分という存在を否定し、心に罪悪感と虚
無感を抱えて生き残った。
自分を否定して生きてきた彼らだったが、
物語を通して家族を、そして自分自身を受け
入れてゆく。そして最後に幼い頃の写真を眺
めながら笑みを浮かべ語り合っていた。救い
のない物語の中で、その姿はだけはどこか清
々としていて、救われた気がした。