インターンの日々。

今から14年前の今頃は、銀座の治療院でインターンとして働いていました。

インターン先は、東銀座にあるカイロプラクティック学校の学長が経営する治療院。

当時は横須賀に住んでいたから毎日横須賀から通勤ラッシュで激混みの京急に乗って、東銀座までほぼ鮨詰めになりながら通っていた。

インターン生は毎日朝八時半までに現地入りし、掃除やらセッティングを済ませ、10時ごろ出勤する院長が来るのを練習したり、だべりながら待っていた。

院長が出勤しても患者さんがいない時はフリートークタイムになり、この時に色々分からないことを質問できるのだが、質問に答えてもらうには、院長から繰り出されれる禅問答のような、答えようがない様々な質問に答えなくてはならなかった。

これに答えられないと「君は何も知らないんだねー」とがっかりした顔で言われ、放って置かれる。

この訳の分からない質問にある程度答えられないと、こちらの質問はほぼスルーされる。

たとえ答えたとしてもつまらない質問だと適当にはぐらかされる。

インターン生にとっては全く未知なことでも、院長本人にしてみれば分かりきったことを聞かれるわけだから、例えるなら数学の教授に足し算のやり方を教えてくれと頼むことと一緒だから答えるのもバカバカしかったのだろう。

不用意に「わからないから教えてくれ。」みたいな質問をすると「そのことについてレポートを書きなさい。」と言われてよけいに面倒が増えることになる。

院長が聞きたくなり、さらに答えたくなるような形で質問するしか答えてもらえなかった。

そうなると相手が好むもの調べ上げ、基礎知識をつけておく必要があった。

院長がいつも読んでいる本から新聞や雑誌をすべてメモリ、とはいえ、いちいち本を揃えるだけの金もないので、新聞や雑誌は売店かゴミ箱をあさって仕入れ、本はアマゾンで目次やらを打ち出し、ネットの書評などがあればそれを全部打ち出して、満員電車の中で読み込んで論点だけとりあえず押さえた。

そして、院長から質問される前に院長が興味のありそうな話題を先に振ると、それについて色々答え、その問答の中で不明点を埋めて、院長の質問攻めに備えた。

そうしておけば、貞観政要や資治通鑑や蓮如やら天狗党やら訳のわからない質問をされても、他の人なら首をかしげて「分かりません」で済ましていたことでも、大方答えられるようになり、質問する権利を獲得できる。

そうして臨床上での疑問や当時、学長が受講していたカイロプラクティックの考え方に脳科学と神経学を取り入れた「カイロプラクティック神経学」などについて色々、質問することができる。

こちらが質問すると、「あれを調べるといい」、「これを調べるといい」、と言って色々ヒントを教えてくれる。参考文献や概念について色々ヒントを出しているのかと思い、主にネットや図書館で色々調べて、翌日、それについてかいつまんで説明する。

すると、また別のことを調べるように言われる。中には英語の文献もあり、インターン中暇なときは常にパソコンの前にいた。

質問をし、ヒントが与えられる。それを調べて学長に説明し、また別のヒントが与えられる。そんな毎日を3ヶ月ほど繰り返した時にある事に気付いた。

今まで与えられたヒントはヒントでもなんでもなく、単に学長が神経学のセミナーで不明な点で、それを自分が調べていた。

その作業にかまけているうちに、自分の質問は何一つ答えてもらうことなく、その質問すら忘れていた。つまりWikipediaのように使われていた・・・。

とは言え、3ヶ月間毎日のように自分で調べて考えて結論を出して人に説明する訓練のおかげで、 当初疑問に感じていたことのほとんどは、自分なりに考えて結論し、解決できた。 ただ答えの出所が違うというだけだ。

規定のインターン時間(450時間)はとっくに消化していましたが、それでも自分なりの課題があったのでインターンを続けていた。

そして11月初旬に、学長から山登りに行こうと誘われ「七ツ石」という所へ泊りがけで行く事になりました。

険しい山を登り、頂上から景色を眺めていると学長から「藤田君は色々知っているねー。君には是非、カイロプラクティックをやるよりも、チベットでラマ僧になってもらいたいと思っているだ。」と訳のわからないことを言われ、唖然とした。

高山病にでもなってトチ狂ったこと言っているのかと思ったら、本人は至って本気だった。

今までの学長の思考パターンからすると、自分がやりたいけど出来ないことを人にやらせようという腹積もり、このままだと飽きるまでチベットの日々が始まる。

おそらく最近はチベットがマイブームなんだろうと、その時は引きつった笑顔で「考えておきます」とだけ伝えて話をごまかした。

そして翌日、治療院に出向き掃除やらを済まし学長が来るまで準備していると、学長が出勤。

開口一番「あなた昨日、チベットに行きを考えていると言ってたでしょ?」と院長の頭の中では自分が自主的にチベット行きを望んでいる事になり、行くことが既成の事実になっていた。

そのあと患者さんが来るまでの間、「五体投地でラサまで目指せ」とか、「治療は行き着くところは魂の救済だ」みたいなマイブームを長々と語っていた。

そのうち患者さんや遊びに来た先輩にも「彼は来年チベットに行く事になっているんです。」と宣言し出した。開業通り越して出家とは・・・・。

一年近くのタダ働きがたたって資金がそこをつきかけていたのと、このままチベット行きが既成の事実になりかねないので、翌日に自宅のラーメン屋で開業することを伝えた。

その旨を伝えると「僕は君はチベットで開業すべきだと思うんだよね。」と言っていた。

こうして、2002年の11月中頃、インターンを終え、銀座を去った。

その翌年、自宅のラーメン屋の裏で開業し、3日後に左腕を骨折し一時戦線離脱する事になる。骨折したことを学長に伝えると「神様がチベット行きを望んでいるんだと思うよ。」と言っていた。

あれから14年、紆余曲折はあったが何とかラマ僧ではなくカイロプラクターとして生き残っている。

学長からはことあるごとにチベットに行けとかドバイの砂漠で開業しろだとか言われたり、ある時は朝方6時頃「犬のミトコンドリアリボゾームについて何か分からないか?」と電話があった。

あのインターンでは自分の糧になったかどうかは分からないが、少なくともいい思い出になった。

思い出いっぱいありがとう!

ふじたカイロプラクティックは2016年6月開業の整体院。
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