横須賀には昔、海軍鎮守府だった田戸台分庁舎という防衛庁の施設がある。この施設は桜の季節にだけ一般公開されていて、今日はその最終日だった。
僕は毎年ここで花見をするのだけれど、今年は休日は忙しかったし、週末は雨が降っていたし、そもそも横須賀まで行くのが面倒でだったのもあって、行くのをあきらめていた。でも今日は午後から予定がなかったから、思い切って仕事をサボって出かけることにした。朝から雨が降っていて寒くて行く気が失せたが、思い重い腰を上げ行くことにした。保土谷から電車に乗って、京急線の「県立大学」駅で降りた。横須賀に着くころには雨もやんで、どんよりした雲の間から太陽が顔を出していた。
駅から田戸台分庁舎までは途切れることなく緩やかな坂が続いた。線路わきを通り、鉄橋下のトンネルを抜け、寺と墓地のわきを通って10分ほどだらだら続く坂を登り切った高台に田戸台分庁舎がある。
建物は英国木造建築の三角屋根がある洋館で、庭園は各地の様々な桜が植えられた日本庭園。入口の門には防衛庁の施設らしくズラリと並んだ監視カメラが入場者を見据え、門のわきには自衛官が立っていた。僕は係りの自衛官に言われるままアルコール消毒と検温を受け、田戸台分庁舎のパンフレットと海上自衛隊のステッカー貰い庭園に入ると、桜は満開だった。
田戸台分庁舎は僕が幼少期を過ごした祖父母の家から歩いて5分ほどの場所にある。子供のころは敷地わきの土手を伝って侵入して池に住むカエルを捕まえたり、庭園の木を切って秘密基地を作ったりしたものだ。そのたびに自衛官が怒鳴り声をあげながら追いかけられ、土手を駆け下りていつもたむろしていた駄菓子屋に逃げ込んだものだった。もちろん今回は正面玄関から堂々と入館した。
今回も洋館への立ち入りは出来なかったから、庭園を散策した。散った桜の花びらは風に吹かれ宙に舞い、庭園や屋敷の周りをしばらく漂っていた。そのうち雨でぬれた路面に落ち、それが折り重なって桃色の層をなしていた。
僕は散りゆく桜をスマホのカメラで撮りながら散った桜の花びらが敷き詰められた園内を散策していた。気が付くと、どんよりとしていた空から次第に雲が晴れて日差しが差し込み、やっと春らしい空模様になり、お花見らしくなった。
今年もここの桜を拝むことができてよかった。一通り撮影を済ませると僕は田戸台分庁舎を後にした。 その後、同じ田戸台で営業している「山の上ベーカリー」という高台のカフェに行った。
そこは古民家を改装したおしゃれなカフェで、名前の通り山の上にある。カフェまでの山道は木々に覆われ、半ば草に覆われた階段が山の頂まで続く。 足元に注意しながら急な階段を登っていると、横須賀の街や山々が一望できるテラス席に着く。
残念ながら今回はテラス席は満員で、ランチも終わってカフェタイムだった。僕はテーブル席に座って、オリジナルブレンドの「山の上ブレンド」とバナナケーキを注文した。バナナケーキはジンジャーが入っていて、ちょっとスパイシーだった。
僕は窓越しに遠くの山々を眺めながらコーヒーを啜り、ケーキを頬張った。 外は雲もほとんどなく晴れて暖かく、雨に濡れた草の匂いが辺りに漂い、初夏の訪れを告げていた。ふと見ると草陰から茂みの奥から猜疑心の強そうな猫がこちらの様子を窺っていた。 患者さんには悪いが、仕事をサボってこんな風に過ごすのも悪くないと思った。
その時の模様をカメラに収めました。
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