神経学の基礎:手首の動きで変わる運動制御

目次

手首の屈曲と伸展の運動制御

手首を下向きに曲げる屈曲運動では「尺側手根屈筋」という筋肉が、手首を上向きに反らす伸展運動では「尺側手根伸筋」という筋肉が働きます。相反する運動する筋肉を拮抗筋といい、屈曲運動では尺側手根屈筋が収縮するときは尺側手根伸筋が弛緩し、伸展運動では逆の働きになります。

屈曲と伸展:手首を動かす隠れた神経メカニズム

このような拮抗筋の働きは、屈筋の収縮を伝える神経信号が脊髄に到達して屈筋を収縮させ、同時に伸筋に対して筋肉の収縮を抑える信号を送って運動を制御する反射運動「相反性Ia抑制」によって調整されています。また屈曲運動の際に屈筋の過剰な活動を防ぎ、筋肉の緊張を適切な状態にして運動を滑らかにする「反回抑制」と「シナプス前抑制」によって制御されています。この反回抑制は、運動ニューロンからの信号が一部レンショウ細胞に伝えられ、これが運動ニューロンへの抑制信号を送ることで、この場合屈筋の出力をコントロールします。シナプス前抑制は、筋肉の収縮を感知する感覚器官である筋紡錘からの情報の過剰な流れを制限します。つまり屈筋の緊張を知らせる感覚情報(入力情報)の感度を下げる事で過度な筋緊張を防ぎます。

手首の外転の運動制御

外転運動では、通常拮抗関係にある尺側手根屈筋と尺側手根伸筋が協力して手首を小指側に向けて動かします。外転運動の場合は反射運動を抑制して意図的な動き(随意運動)をするために、大脳から随意運動の指令を運動ニューロンに伝える「皮質脊髄路」が脊髄内の「非相反性I群抑制」を用いて、反射運動を誘発する神経の活動を減少させ、適切な筋肉だけが動作するように調整します。こうして滑らかな手首の外転運動が行われます。

神経障害が引き起こす過緊張と痙性麻痺

脳の損傷、たとえば脊髄損傷や脳梗塞のような上位中枢に問題が生じると、通常の運動を制御する神経経路が乱れ、筋肉の緊張が異常に高まる過緊張や痙性麻痺と言った症状が生じる。この場合、障害によって皮質脊髄路の支配が強まる事で抑制性介在ニューロンである「反回抑制」や「シナプス前抑制」に対して抑制がかかり、筋肉の過剰な活動を抑える機能に対して抑制がかかります。その結果、筋肉の過緊張や痙性麻痺といった状態が引き起こされることがあります。

臨床に役立つ神経学

ここでは手首の屈曲伸展運動と外転運動という単純な運動の違いを通して神経による運動制御の違いと、介在ニューロンの働き、筋肉の過緊張や痙性麻痺の原因とメカニズムについて簡単に解説した。このような運動制御に対する知識を使えば、単純な運動の観察から中枢神経系のどこが、どのように機能低下しているのかを判断するための助けとなり、運動パフォーマンスを向上させるための施術を行うための材料になる。手首の運動をただの動きとしてではなく、その背後にある神経学的なダイナミクスを理解することが、カイロプラクターにとって非常に重要である。

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